その他

梅雨の晴れ間、木屋町通。

投稿日:2016年7月1日

木屋町通は、二条通から高瀬川沿いを
南に向かって続く通りです。
高瀬川は、その昔、大坂から伏見港を経て、
物資を運び込むために開削したもので、
森鴎外の名作『高瀬舟』にも登場します。

 

木屋町通

 

『高瀬舟』の舞台は、
島流しを命じられた罪人を大坂へ護送する舟の上。
ある日のこと、喜助という男が高瀬舟に連れられてきました。
だが、この男は、これから島流しにされるというのに、
なぜだか楽しそうなのです。
これを不審に思った護送役の羽田庄兵衛は、
彼に「なぜ?」と問いました。
すると、喜助は「私の半生はあまりに辛かったので、
島流しにされても大して変わるまいと思うからです」と語りました。
さらに聞くと、彼は弟殺しの罪で送られてきたのだとか。
「ふむ、なるほど」と思った庄兵衛。
しかし、この純粋そうな男が本当に弟を殺したのだろうか?
という疑問がわきました。
庄兵衛は、何故弟を殺したのか喜助に聞きました。
すると喜助の口から語られたのは、
自害し損ねた弟を楽にしてやっただけ、という真実でした。
喜助は子供の頃に両親を亡くし、
弟と2人で暮らしていたそうです。
しかし、弟が病気で働けなくなったので、
一生懸命に働きながら弟の面倒を見ていました。
ところが、ある日家に帰ると
弟がのどから血を流し、苦しんでいます。
聞けばこれ以上迷惑をかけたくないと思い、
剃刀で自殺を図ったようなのですが、
死にきれずに剃刀がのどに刺さったままになっていたのです。
弟は剃刀を抜いてくれと必死に頼みます。
しかし、剃刀を抜けば出血で命を落とすことは間違いありません。
喜助は悩んだ挙句、剃刀を抜きました。
弟は息絶えますが、
そこを近所の人に見つかり罪人になったといいます。
それなのに喜助は「島流しなど、
今までの苦労に比べたら苦でない」と笑います。
そして「お上に居場所を作ってもらい、
食べさせてもらえるのはありがたい」と答えるのです。

喜助の話が真実かどうかは判りませんが、
仮に真実だとしたら、果たして喜助は本当に罪人なのでしょうか。
庄兵衛は、喜助のしたことは人殺しと呼べるのか、
自問自答してしまいます。
けれどお上の決定をひっくり返すことは出来ない。
疑問に思いながらも、
庄兵衛はただ粛々と護送の役目を果たすこと以外は出来ませんでした。

 

この短編小説は2つのことを問いかけています。

1つが安楽死の問題。
もう1つは、足ることを知る生き方です。
喜助は、島流しをありがたいといいました。
生きていればそれで満足と思ったのでしょう。
人間は腹を満たせたら欲望を
どんどんエスカレートさせる生き物です。
鴎外は、人間の欲望の愚かさを
庄兵衛の驚きに重ねて示したかったのだと思います。

久郷直子

-その他

関連記事

部屋のデスク

「ミニマリスト」の考え方から学ぶ

いよいよ、夏休みも最終週。 今回は、最後の課題「ミニマリストの考え方を知る」についてのお話です。   近年、テレビや本などでクローズアップされている「ミニマリスト」。 言葉自体は知っているも …

キャッシュレス化

キャッシュレス化の波が…

10月1日より消費税率が10%になりました。 家計へのダメージは少ないとは言えず、 自分自身、お金に対する意識が高まっているのを感じます。 最近はキャッシュレス化が進んでいて、今回の増税に伴い、 キャ …

食べ歩き

「立ち食い」にとまどう…

京都で暮らす私のご近所では、国内外からの観光客が着物姿になり、 抹茶ソフトクリームや焼餅などを歩きながら食べているのをよく見かけます。 外国の方の食べ歩きや立ち食いは気にならないのですが、なぜか日本人 …

お薬手帳

おくすり手帳が抱える問題

最近『おくすり手帳には不備がある』という内容のコラムを読みました。 おくすり手帳は、医療機関で処方された薬の情報や服用履歴、 アレルギーの有無などを記録して管理するための手帳です。 この手帳を持参する …

再生栽培

話題の再生栽培に挑戦中です。

再生栽培とは、根を水に浸したり土に埋めたりなどして栽培すると 食べられる部分が再生する野菜を育てること。 再生野菜は、リボーン・ベジタブル「リボベジ」とも呼ばれ、 昨今、大変注目されています。 リボベ …